2009年12月22日火曜日

政権のたそがれ

 今回は裁判員制度について書く予定だったが、テレビで、麻生・鳩山党首討論をみて、気が変わった。
 新聞など、おおかたの評価は、両者痛み分け、という論調だが、私にいわせれば、圧勝とまでいかないが、あきらかに鳩山さんの勝利に終わったと評価する。二人とも、さいきんの言葉でいうセレブで、そしてそれゆえの共通の弱点を感じるが、しかし鳩山さんはこれまでの経歴がプラスとなって、前回代表をつとめたときよりも、ずいぶん頼もしさをましたように見受ける。
 相変わらず、「友愛」などという政治家としては生ぬるい理想を掲げているが、たとえば、「いまの官僚支配の政治を変えていこうではありませんか」
というような語りかけのスタイルは、その中身はべつにしても、彼のいう友愛が必ずしも空理ではなく、堂に入ってきたという感じをあたえる。全体としても、育ちのよい素直さがそのまま率直な所信表明になっていて、好印象だった。
 いっぽう、麻生さんの方は、私としては期待を裏切られた感がある。言葉のうちに、ユーモアを欠いた皮肉の毒がふくまれている、彼の口もとに似た、ひね曲がった話法がくりかえされた。それは国家のリーダーにふさわしいものではない。しかも、「国民最大の関心事である小沢前代表と西松建設の問題…(略)」という発言には、まったく失望した。誰が考えても、国民の最大の関心事は、景気対策、年金問題、行政改革等々、これからの日本をどうするのかということ以外にない。西松問題なんて、じつのところ、どうでもいい話だ。
 与党は、岡田さんではなく鳩山さんが党首になって、ほっと胸をなでおろしていたふしがある。西松事件以来の支持率上昇を背景に、小沢傀儡体制だという批判もできるし、なにより支持率は上がるまいとタカをくくっていたようだ。しかし蓋を開けてみると、鳩山支持は麻生首相を上回った。
 しかも悪いことに、麻生首相が厚労省分割案を示唆。たしかに、年金、医療、介護、少子化、雇用、インフルエンザ、薬害など、厚労省の抱える問題は大きく、多岐にわたっている。一人の大臣では手におえないという議論も解らなくはない。
 だがそうすると、行政のスリム化というこれまでの流れと逆行する。さらには、麻生さんのいつもの癖で、側近にすら根回しを欠いているために、寝耳に水の与党内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなった。足元の閣僚内からも異論が噴出。当の桝添厚労相でさえ、分割案には慎重な姿勢を示している。河村官房長官もたいへんだなと同情を禁じえない。それゆえ、わずか二週間で分割案をひっこめた。ふたたび「ぶれた」というかたちである。
 厚労省所管の保育所と文科省所管の幼稚園を一元化するという提案にしても、意図は悪くないのだが、とにかくやりかたがまずい。というか、その行動に表れているのは、リーダーシップなどということを問題とする以前の、子供のような幼さである。独裁権力を握っているわけでもないのに、命令一下、すべて思うままにいくはずがない。いくら目的が正しくても、方法の選択を間違えば、目的それ自体をも破壊しかねない、というのは大人の常識である。そもそも、党内基盤が弱い上に、国民の圧倒的支持があるわけでもないのだ。これまで何度も同じやりくちで失敗してきたのに、この人は学習能力がないのだろうか。
 これでは、上昇基調にあった内閣支持率も下降に転じるほかあるまい。したがって解散は任期満了ぎりぎりまで先延ばしにされる。とすれば、麻生首相は切り札の解散権を失ったも同然であり、この先ますます身動きがとれなくなるであろう。のこされたチャンスは、依然として、「敵失」という僥倖だけである。